「あんまり濃いの飲んでると、胃が悪くなるわよ」


「大丈夫だって。普段からエスプレッソで通してるからな。淹れてくれる秘書の子たちにもそう言ってるよ」


「神経がおかしくなったりしない?」


「平気平気。執務中も、幹部が集まる定例会議前にも、俺は濃い目のを飲んでるんだ」


「じゃあ、少し豆多くするわね」


 千奈美がそう言い、ドリップ式のコーヒー豆をスプーンで掬い取って、追加した。


 いい香りがキッチンから漂ってきて、俺は改めて新しい朝が来たのを思う。


 昨夜は一晩中抱き合っていた。


 彼女を抱いた感触がまだ手に残っている。


 千奈美は体型はスリムなのだが、脂肪分が結構多い。


 俺はそんな彼女を誰よりも愛していた。


 自分の正妻である優紀子には目もくれずに。