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 俺が翌朝、午前八時過ぎにベッドから起き上がって、手元に置いていたメガネを掛ける。


 じっと目を凝らすと、千奈美が仕事に出かける準備をしていた。


 リビング横の流し兼キッチンからはコーヒーの香りが漂ってくる。


 どうやらホテルに備え付けのものではなく、持参したそれのようだった。


 俺がその後ろ姿に声を掛ける。


「千奈美」


「何?」


「コーヒー淹れてるのか?」


「ええ。……飲む?」


「うん。エスプレッソで淹れてくれよ」


「苦いのがいいの?」


「ああ。俺はコーヒーはいつも苦めなんだ」