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 俺は脱いで置きっぱなしにしていたスラックスのポケットからタバコの箱を取り出して、中から一本抜き取り銜え込む。


 先端にジッポで火を点(つ)け、燻(くゆ)らし始めた。


 タバコがメラメラと燃えていく。


「フゥー」


 思わず吐息が漏れ出る。


 相変わらず目の前のベッドに横になっているパートナーの千奈美は、女性用の強い香水を付けていて、その残り香が今いるホテルの一室に漂っていた。


 俺はしばらくの間タバコを燻らせ続け、やがて燃えてしまってから、灰皿に押し付けて揉み消す。


 俺は六本木にある商社の社長だ。


 毎日朝の九時に出勤してきて、休む間もないぐらい働いている。


 まあ、働くと一口に言っても、俺は部下がパソコンで打ってくれた書類に目を通し、判を突くだけだったのだが……。