「おーおー。ここもずいぶん、廃れたもんだな」


6年前、それ以上前からリュウが見下ろしていた場所は、昔とはずいぶん変わった。


ヒカリがいた頃は、このビルの周りもそれなりに栄えていたけど。ヒカリと威光がいなくなったことで、どんどん崩れていってしまった。


「……」

ぽっかりと開いた、昔はフェンスがあった場所の前にしゃがみ込み、紫蘭の花束を置く。


「祠稀。今度ちゃんと、墓参りしに行けよ。場所は教えただろ?」

「……大学に受かったらな。それまでは、ここでいい」


言うことを聞かない俺に、リュウは仕方ないなと言うように溜め息をつき、持っていた缶ビールのプルタブを立ち上げた。


俺は煙草を取り出して火をつけると、一度ふかしてからリュウが地面に置いた缶ビールのふちに載せた。


毎年、毎年、同じもの。


「……どうして、紫蘭なのかなって思ってた」


言いながら隣にユナが座って、俺はあぐらを掻いて立ち昇る煙草の紫煙を眺める。


「花言葉で、選んだんだね……」


自分でも、柄じゃねぇと思うよ。花言葉なんて、なんだそれって感じだし。本人に伝えられるわけでもねぇのに。



“あなたを忘れない”


忘れるなんてありえないのに、それでもこの花を贈り続けた。


口に出しても届かない。返事だってこない。これは束縛にも似た、俺の覚悟。


生かされた俺が、ヒカリの眠る場所に堂々と逢いに行けるようになるまで。胸を張って生きていると、伝えられるまで。俺はあの日々を、忘れない。


ヒカリに出逢った日のことも、ヒカリと過ごした日々も、この場所から俺を守って落ちた日のことも。


思い返しては幸せに満ちて、後悔に涙する。それでも俺は生きていくと、必ず伝えに行くよ。


ヒカリが見つけてくれたちっぽけはガキは、もう18になったんだと。この姿を見せに、必ず逢いに行く。


「待ちくたびれちゃったよ祠稀~って、言ってそうだよなぁ。ヒカリの奴」

「でも逢いたかったって、笑ってくれるよ」


……簡単に想像つくから、困るよな。


それほど、ヒカリは未だに自分の中で大きい存在ってことだ。