◆Side:祠稀


「じゃあなんだ、けっきょく大学受験すんのか」


月日は流れて9月中旬。宵闇が迫る歓楽街を、初代威光メンバーのリュウと練り歩いていた。


「それって、教師になるってことか?」

「……まあ、そうだけど」


改めて口にすると死ぬほど恥ずかしい。俺が、まさか、教師を目指すなんて。


「母ちゃんも兄貴も知ってるんだろ? 驚かれただろうな」

「別に……頑張れって言われたくらいだし」


もごもごとバツが悪そうに話す俺の頭を、リュウは豪快に笑いながらぐしゃぐしゃと撫でてくる。


「やめろっつーの! 俺はガキか!」

「ハハハ! 俺にとっちゃ祠稀もユナも、まだまだガキだよ」

「……っ」


クソ……だから嫌だったんだよ。


こんな、昔の俺を見てた奴に夢を語るなんて。あれだけ毛嫌いしてた親父と、枢稀と同じ職業なんて、絶対なるもんかと思ってたのに。


「ま、少しは大人になったか? 髪も短くしちゃって。出逢った頃が懐かしいわ」

「髪はほっとけ。あれから6年だぞ。大人になってなきゃ困るっつーの」


そう返しながら、もうそんなに経ったのかと思う。少しは俺も、成長したんだろうかとも。


異様に明るい歓楽街から少し外れた、あまり栄えていない場所。ヒカリがいた頃の、威光の拠点であったビルが、そこにある。


「……ユナ」


ビルの入り口を通ると、床に蹲ったユナがいた。パッと顔を上げたユナの足元には、紫蘭の花束。


「おー。ちゃんと買えたか。祠稀が言ってた通り、探せばあるんだなー」

「これくらいでよかった……?」


立ち上がり、リュウに頭を撫でられながらユナは俺に花束を渡す。


「充分。ただ、置くだけだしな」


受け取って微笑むと、いつも無表情に近いユナも笑った。


すぐ近くにある階段を黙々と上って、屋上へ続くドアを開ける。至るところが錆び付いて、いつか壊れるんじゃないかと心配だ。


それでも変わらずにある、1枚だけ抜け落ちた落下防止のフェンスは、今年も俺の胸を締め付ける。