「調査書、来週提出だからなー。よく考えて出すように!」


全ての授業と帰りのホームルームを終え、担任が教室を出る間際にそう言う。


席を立つクラスメイトと少し会話してから、鞄を持って教室を出た。


あたしの手には、真新しい進路希望調査書。


……どうしよっかな。


パパの会社を継ぐ気もないし、かと言ってあたしの頭じゃ、一流大学は無理だってことだけは分かってるし……。


ぼんやりとした未来のビジョンはあるのに、明確な夢を掴むのって、難しい。


調査書を鞄にしまい込むと、「彗先輩!」と前方から女の子の声が聞こえた。


――お。


廊下の先にいたのはふたりの女生徒と、相変わらずセットしていない金茶の髪をした彗の姿。


横一列に並ぶ3年生の各教室には、廊下をまっすぐ歩くだけで辿り着く。


あたしは6組で、今4組の前まで来たところ。


彗は2組で、多分、教室を出たところで呼び止められたんだろう。彗は鞄を肩にかけた状態で、目の前の女子を見ている。


あたしは立ち止まってその様子を眺めた。ひとりの女子が、何やらかわいい袋を持って必死に話しかけている。


2年生かな……。あ、有須。


きっと彗を迎えに行こうとしたんだろう。3組から出てくるなり彗と女の子の姿を見つけ、サッと教室に隠れてしまった。


「……」


出てきた出てきた。


今度は後ろのドアから顔だけ出した有須は、彗たちの様子を窺っている。


口の端を上げて傍観していると、女の子が彗に袋を差し出した。


それを彗が受け取った瞬間、女の子は勢いよくお辞儀をして、友達と「きゃー!」って叫びながら有須の前を通り過ぎ、3組と4組の間にある階段を降りて行った。


「なんだ今の」


背後からの聞き慣れた声に振り向くと、髪をバッサリ切ったばかりの祠稀が眉を顰めている。