「緊張してるの?」
見上げると、あたしのマグカップを持った彗が立っていた。彗は隣に座り、マグカップを手渡してくれる。
「何もないことを願うよ、あたしは」
ほとんど自嘲に近い笑い方をすると、彗も深くソファーにもたれて「そうだね」と呟いた。
「かぼちゃのケーキは俺のやで!?」
「え? 遊志はチョコでしょ?」
「なんでやねん! 大雅、チョコがええ言うたやんけ!」
「ちょ、喧嘩しないでください!」
キッチンに目をやると、喧嘩する遊志と大雅を止める有須の姿。
……呑気というか、なんというか……。
――2日前。遊志に有須を送らせた日。有須が暗い顔で帰ってきたから、話を聞いた。
祠稀が何をしているのか、大雅が知っているかもしれないと。もしかしたら、危ないことかもしれないと。
そう有須が不安そうにして、あたしは遊志に連絡した。それで、今に至る。
何もないかもしれない。
でも、あるかもしれない。
大雅が何か知っているなら、あたしは聞きたいと思った。それが、祠稀の傷に繋がるかもしれないと思ったから。
あたしはどこまでお節介なんだろうと思いながら、それを止めることはできなかった。



