◆Side:凪
ベランダの柵に頬づえをついて、夕陽が沈んでいくのを眺めながら、リビングに届いた電子音に目を閉じる。
「……凪、来たよ」
彗の声に瞼を開くと、オレンジ色に染まっていた街並みに蔭りがかかっていた。それを瞳に焼きつけて、リビングへ足を踏み出す。
彗は窓を閉めてくれて、有須はお茶の用意をしていた。ひと言も発することなく玄関に向かい、訪問者を受け入れる。
「いらっしゃい」
学校が終わってすぐ、あたしたちが住むマンションを訪れたのは、私服に着替えた遊志と大雅だった。
「ケーキ買うて来たでー!」
「どーも、凪ちゃん」
いつもの調子と変わらない遊志と大雅。あたしはただ笑みを返し、ふたりを招き入れた。
遊志には悪いけど、ケーキは喉を通りそうにない。
ちらりと廊下を歩く大雅に視線を移すと、意地悪く微笑まれてしまった。
……大雅は、何を知ってるというんだろう。祠稀の、夜の街の、何を。
「あ、いらっしゃい!」
「お邪魔しまっす! これケーキっ」
「わ! ありがとうございます!」
「……俺、甘いの嫌い」
「うそーん! あ、でもゼリーも買うてきたで! ゼリー!」
リビングにふたりを通すと、キッチンの周りで和気藹々と話す有須と遊志と彗。あたしはひとりソファーに向かって、深く深く身を沈めた。



