「……ごめん。でも、待って……お願い」
理由も言えないくらい有須も困惑していたけど、彗を止める表情は必死そのものだった。
彗も、そんな有須に焦っていた表情が段々と薄れてくる。
「……産婦人科……?」
呆然としていた颯輔さんが呟き、その表情が青ざめていくのが分かった。
「……何が?」
聞くと、颯輔さんは俺を見てから、床に視線を落とす。
「……レセプトっていう通知が家に届くんだ。保健によって通知内容が違うんだけど……受診した医院名とか、受診した年月とか、受診日数、支払ったお金とか……」
……そんなのが家に届くのか。
「俺のとこは病名は通知されなくて……医院名が総合病院だったから……まさか……そんな」
動揺するのは仕方ないと思う。それでも今は凪を追いかけたほうがいいんじゃないかと思う。
だけど心が鉛のように重くなって、足が棒みたいに動かなくなる。それほど、凪が明かした秘密は衝撃だった。
……考えろ。
考えなくたって動けよ。後先考えずで、勢い任せでいいじゃねぇか。
ここにいたって何も変わらない。かける言葉が見つからなくたって、凪を追いかけるのが先だろーがっ。
「っあたしが行く!」
今度は俺が、有須に止められる番だった。
見ると、有須はガチガチに緊張した面持ちで、胸の前で重ねた両手を握っている。
「あ、あたしに……行かせてほしい」
思わず苦笑がもれたのは、有須の緊張が伝わってきて、それでも譲らなそうな意思の強さを感じたからだった。
……そんなガチガチのくせに大丈夫かよ。
そう思ったけど、俺は彗と顔を合わせて溜め息をついた。彗も、有須が行くことに賛成らしい。
「じゃあ、行ってこい」
「……頑張って」
俺らもそのうち行くと思うけど。その言葉を隠したまま、「行ってくる!」と気合いを入れた声で言った有須を見送った。
気付けば病室は薄暗くなっていて、窓から見える外は夜を迎える準備を始めている。
流れ星に祈れば願い事が叶うなんて思わないけど。空一面に光り瞬く星全てが、凪と有須の道を照らしてくれればいいと思った。
お互いがまた心から、笑い合えるように。
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