「あたしは多分、子供が産めないから」
……、は?
思考が一瞬止まって、食い入るように凪を見つめても、言葉なんか出なかった。
急いで彗を見たけど、この場にいる凪以外の人間で、唯一彗だけが困惑していない。それがもう、答えだった。
『……意味は分かってるんだ……気持ちが、追いつかない……』
その秘密を抱えてる凪の気持ちが、彗には想像つかないんだと思っていた。彗なのに、彗でも、分からないと言った。
……彗が、男だから?
「ちょっ、と、待てよ……」
なんだよ、それ。嘘だろ?
そう目で訴えながら呟いてしまった俺を、凪の瞳が捉える。
……その、うっすら滲んだ涙の意味は、そういうことか。
「嘘じゃないよ。あたしの秘密、知りたがってたでしょ?」
嫌味のように聞こえるのに、それに腹を立てることなんかできなかった。
嘘だろとか、多分ってなんだよってことしか頭に浮かばなくて。
それでも俺は、目の前にいる凪を力いっぱい抱き締めてやりたいと思った。そんな俺に凪は静かに微笑んで、再び颯輔さんに顔を向ける。
「……だから、なおさら、緑夏ちゃんには産んでほしいし、サヤには育ててほしいの。嘘じゃないよ。本当に、そう思って……」
言葉を切って俯いてしまった凪に、俺はギュッと拳を握った。
苦しいくせに。つらいくせに。
颯輔さんが望む未来を叶えるために、自分の秘密まで利用する凪を、なんてバカなんだと思ったし、堪らなく愛しいと思った。
「……ごめん。慣れないことは、するもんじゃないね」
鼻をすすった凪は顔を上げて、笑った。出逢った頃と同じような、凪らしい笑顔。
「とにかく、無事に産まれてくれれば、それでいいから」
「――っ凪!」
病室から飛び出していった凪を、彗以外は誰も止めなかった。止められなかった。
「なんで……」
彗の嘆きが、よく分かる。なんでここで、逃げ出してしまうんだ。せっかく、自分の口から秘密を言えたのに。
……なんて、その苦しさに耐えられなかったのは、俺も同じのくせに。
「……っ」
「待って彗! ダメ!」
凪を追いかけようとしたのか、動いた彗の腕を有須が掴んだ。



