「……彗」
「それだけはずっと変わらない、って……」
「彗、俺は……」
「父親としてでいい」
颯輔さんの言葉を遮るような、強く、はっきりとした彗の声。見ると、彗の瞳から一筋、涙が流れたところだった。
「それが颯輔さんの答えなら、ちゃんと伝えてあげてほしいんだ」
「――…」
颯輔さんが息を呑む。彗の言葉は、俺の胸にさえ突き刺さるほど、痛かった。凪のことを想うと、どうしようもなく胸が痛んだ。
……こんなことになってるなんて、凪は知る由もないだろうな。
「ごめんなさい」
彗の謝罪に左側を見ると、彗は視線を落として眉を寄せている。
「ずっと……どうにかしたいって。でも、どうにもならないことだって……思ってたんだ」
小さく震える彗の声は、リビングに充満する生温かい空気を冷やすようだった。
「俺が、ずっと凪のそばにいたってよかった……俺だけが一生、凪と生きてあげればいいって……他の誰より、いちばんに、凪だけを想っていようって……」
颯輔さんの表情が、段々と暗くなる。寄せられた眉も、細められた瞳も、きつく結ばれた唇も、浮かんだ涙をこらえるため。
「だけどもう、俺だけじゃどうにもできない……」
眉間に深くシワを刻み、瞼を閉じて僅かに俯きかけた颯輔さんは、彗を見つめるのをやめなかった。
「……俺は、颯輔さんが好きだし、尊敬してるし……何回も、救われたから……何事もなく、幸せになってほしいのに……っ」
床に向かって言葉を吐く彗は、自分の左手を強く握り締める。
弱弱しく右手で掴まれた場所にあるのは、無数の切り傷。疼く、過去の傷であり、彗が生きた証。
そして、颯輔さんに救われた事実を幾度となく思い出すもの。



