「だって颯輔さんは結婚して、自分の子供も生まれるんだから」
「――…」
彗の、嫌味にも取れるそれを聞いた颯輔さんの表情は、衝撃を受けたようなものだった。
そんなことを言われると思っていなかったというよりは、言わせてしまったことに対しての痛み。
彗もまた、こんなことは言いたくなかったと、苦い顔をしていた。
「……凪が幸せになれるように、他に拠り所ができるようにって……実家を出ることを許したのは、颯輔さんができる最良の選択だったんだろうって、何回も思ったよ。……でも、やっぱりどこかで、放り出したんじゃないかって思っちゃうんだ」
「……そんなこと……」
苦しげに声を絞り出した颯輔さんに対し、そんなことはないと言い切れないだろうと思った。
放り出したわけでも、見捨てたわけでもない。
だけど、凪を想って家を出ることを許したのが本当でも、それは結果的に父と娘の関係を守るためだったはずだから。
凪の気持ちには応えられないという、遠回しで曖昧すぎる、濁った返事だ。
「……緑夏さんを、授かった子供を大事にしたいっていう颯輔さんの気持ちは分かってる。凪が邪魔だとか、そんなこと思ってないってことも、分かってる」
「……」
「だけど、だからこそ……凪から目を背けないでほしかった」
彗を見つめる颯輔さんが、唇を結んだ。早坂は俯きがちに黙っているだけで、有須も同じ。
「早坂先生や俺たちに任せるんじゃなくて……任せてもいいから、颯輔さんは俺たち以上に、凪を気にかけてあげてほしかったんだ」
颯輔さんを見ながら言葉を紡ぐ彗の瞳からは、今にも涙が落ちそうだった。
「……もう、充分すぎるくらいだって、思うけど……これ以上を望むのは、欲張りかもしれないけど……」
頑張れ。
言葉が途切れた彗に心の中でそう言って、沈黙が破られるのを待つ。
「もっと、もっと……凪を愛してるんだって、言ってあげてほしかった」



