◆Side:祠稀
……みんな心配してた、か。
颯輔さんが凪に平手打ちをして言った言葉を思い返す。
凪は颯輔さんを見つめていたけど、ただ瞳を揺らすだけで言葉を発さなくなった。
颯輔さんの背中と凪の顔を視界に入れてるだけの自分も、同じようなもんだけど。
颯輔さんが凪に平手打ちした時、思ったんだ。
あれは、愛ある行為だと。
娘に拳を向けるのはさすがにありえねぇと思うから、平手なだけマシだろと思ったのも本当で。
叩いた本人が痛そうで、つらそうだと感じたのも本当で。俺の親父とはまるで違う使い方があるんだなと思った。
敵意でも憎悪でもなく、暴力でも暴戻な行為でもない。ただ純粋に父親として、堪らなくなったんだろう。
……あの日もそうだった。
凪がマンションを出ていった日の夜も。
―――約2週間前―――
「あー、俺、祠稀ですけど」
固まった有須から受話機を取り上げ、モニターに映る人物を再三確認する。
『え? ああ、祠稀くん! こんばんはっ』
「どーも」
夢であってほしいと思ったけど、声も姿も颯輔さんで間違いなかった。
『急にごめんねー』
「いえ……何かあったんですか?」
『んーん。出張でこっちに来てたから……』
どうしたもんかな。
『ごめん、ちょっとお邪魔しようと思ったんだけど。今忙しかったかな』
「……」
隣の有須は俺と彗を見るのに忙しそうで、リビングにいる彗は俯いてるし、早坂も困惑した表情で俺を見てる。
「……いえ全く。どーぞ、上がってください」
『あ、ほんとー!? よかった! じゃあ、お言葉に甘えてっ』
一斉に視線を浴びたのには気付いていたけど、俺は颯輔さんに「じゃあ、またあとで」と告げて受話機を元に戻した。
その途端、ガッと有須に腕を掴まれるのも予想の範囲内。
「颯輔さん家に上げちゃうの!?」
気持ちは分かるけど、他にどうしろっつーんだ。



