「うん、聞こえたよ」
そう言いながら、俺は1歩も動かない。見上げてくる凪は乾いた唇を震わせた。
「あたしは彗のことだって憎い」
凪の言葉にきっと後ろのふたりは驚いたと思う。凪もそういうつもりで言ったんだろうけど、俺は特別驚くわけでも、傷付くわけでもなく、
「うん」
と、微笑むだけだった。
ドンッ!と俺の胸元を強く押した凪は、頭に血が上ったんだと表情で分かる。
「今のあたしの状況、分かってんの!?」
「分かってるから、ここに……」
「サヤに余計なこと言ったの彗たちでしょ!!」
「……」
「ホントに信じられないっ! もう顔も見たくないし、アンタ等に構ってる場合じゃないって言ってんの!!」
惜しげもなく怒りを露わにする凪に、俺は口を噤んでしまったけど、代わりに微かな息使いが耳に届いた。
「知るかよ、そんなこと」
嘲笑を含んだ、祠稀の言葉。
「凪が言ったんだろ。俺らがしようとしてることは正しいのか、間違ってるのか、よく考えろって」
凪が俺の背後を睨んだのとほぼ同時に、祠稀が俺の横に立った。
「これが俺らの正しいだ。人によって何が正しいのか正しくないのか違うと思うって……そう言ったのは凪なんだから、もちろん納得してくれるよな?」
「~っだからって! 大人しく納得するとでも思ったわけ!?」
「さー……まぁ、迷惑だろうなとは思ったし、実際本気で怒ってるみたいだけど。それが何? 納得いかないのも、怒ってんのも、俺らだって同じですけど?」
凪が腕を振って投げつけた財布を、祠稀は難なく受け止める。
「くれんの? 軽いからいらねーけど。あー……金に困ってんの? あの120万、返してやろうか」
「うるさい黙れ!!」
凪の財布を上に投げてはキャッチして、祠稀は笑う。だけどその瞳は決して、楽しそうではなかった。
……凪は祠稀を相手にすると、感情が剥き出しになる気がする。
売り言葉に買い言葉というよりは、祠稀だからって気が――…。
「何してるの……」



