「凪に逢いに来たんだ」
「……逢えたよ、ほら。それで? もう帰るだけだね」
「帰らない」
そう言った俺を見つめる凪の瞳が、揺れる。だけどやっぱり凪は笑って、言い聞かせようとするんだ。
俺に。自分に。飽きるほど。
「ただいまって言う場所が、彗にはちゃんとあるでしょ」
……あるよ。颯輔さんの家と、祠稀と有須がいるマンション。2つあるけど……どちらにも、まだ帰れない。
「凪がいないなら、帰っても意味ないよ」
まだそんなことを言ってるのかと、なんのために俺を祠稀と有須に頼んだと思ってるんだって……そう言われても、仕方ない。
「……は、何言って……。彗、いい加減にして」
だけど俺は、凪とずっと一緒にいたいって気持ちはあるけど、凪がいなきゃ生きていけないとか、そういうことを言ってるんじゃないんだ。
「分かってないの? 彗、あたしは、もういいって言ってるの」
――分かってる。
一生そばにいなくていいって。凪は俺がいなくても、俺は凪がいなくても、生きていけるって。
恋にも、愛にもならない。愚かで悲しい、何より強い絆。そんなものはもうないんだと、ちゃんと分かってるよ。
だけど。
それでも。
「……家族だ」
バネが弾かれたみたいに目を見開く凪に、俺は訴えかける。
「俺と凪は、家族でしょ……?」
これっぽちも血なんか繋がってない。ぺラペラの、紙の上で記されるだけの関係。
だけどそれが今さら、なんだって言うんだ。
「ねぇ、凪……俺のメール読んでくれた?」
ビクッと肩を揺らした凪は、読んで、気付いたんだろう。あのメールが、ずっと待っていた俺からの返事だったと。
――分かってるんだ。
本当に。凪の気持ちは、きっと誰よりも。



