◆Side:彗
病室に入ってきた俺たち3人の姿を捉えた凪は、戸惑いの表情を隠せない。
気付いてなかったみたいだけど、俺たちは凪が荷物を漁ってる時にはドアを開けていた。
床に倒れてる点滴台を見て、聞こえた大きな音はアレか…と妙に落ち着いて思う。
「……何してんの……なんで……」
視線を戻すと、凪は財布とコートをしっかりと胸に抱いていた。
「……ダメだよ凪。ちゃんと休まなきゃ」
「来ないで!!」
言いながら1歩前へ出た俺に、凪は声を張り上げる。
「何しに来たの!? なんでここにいるのよ!」
俺たちを睨む凪の瞳は焦燥感が漂っていたけど、その奥にあるのは困惑だけだった。
「……何って、お見舞い?」
凪の質問に答えたのは祠稀で、その言い方は、逆に凪へ質問を返してるみたいだ。
ここにいるのに理由が必要なのかと、聞きたげな口調。
……大丈夫。凪は、今でこそ戸惑ってるけど……すぐに頭を切り替える。
冷静を装って、俺たちを怒らせるようなことを言うか。涙を見せて、この場凌ぎの凪を演じるか。
「……よっぽど暇なんだね」
――ほら。始まった。
暇人扱いされた俺たちは、1歩下がった凪を黙って見つめる。
「……お見舞い?」
クッとおかしそうに笑う凪は首を傾げ、まるで汚い物でも見るような目つきで言う。
「今日が何月何日か知ってる? 実家に帰んないで、何してんの?」
今日は1月5日。そんなことはみんな知ってるし、何も実家に帰らなかったわけじゃない。
「……あたしも祠稀も、ちゃんと帰ったよ……」
有須の返答に、凪は馬鹿じゃないかと言いたげだ。
「ああ、そうなの? じゃあもう1回帰れば? 祠稀のお母さんもお兄さんもチカも、有須の両親も、まだまだいてほしかったんじゃない?」
凪は一息に言って、俺に視線を移した。とても冷たい、だけど、胸を締め付ける他ない、凪の視線。
「彗が来るのは、ここじゃないでしょ?」
にこりと微笑む凪に、笑い返すことはしない。



