僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「産まないほうが……かも……ない…っ」


確かに聞こえた、緑夏ちゃんの震えた声。


全て聞き取れたわけじゃなかった。だけどあたしの頭の中で反芻され、言葉はしっかりと繋がっていく。


――ウマナイホウガイイカモシレナイ。


「――…」


「なんでそんな話になるんだ……っ」

「だって! ……だ、って……」


ふたりの声が耳を通り抜けて、周りの音が遠のいていく感覚。


「夢虹さーん!」


ビクッと肩を強張らせたのは一瞬で、すぐに呼ばれたのは夫婦のほうだと分かる。


あたしは微動だにせず、数分経ってから窺うように椅子の隙間からふたりを探した。


動く人たちで見え隠れしたけど、サヤが緑夏ちゃんの背中に手を添え、歩き出したのを確認する。


ふたりがエスカレーターに乗り1階へ下りていくのを見てから、あたしはやっと立ち上がることができた。


「……クソ女」


いつもの声色で口をつく、汚い言葉。けれどそれは本人に届くことなく、あたし自身を痛めつける。


乱暴にフードを取って、その勢いのまま歩いた。歩調の荒さは今の気分そのもので、エスカレーターさえも大股で上り切る。


3階にある病室の前に着けば苛立ちも最高潮で、病室に入るなり、ベッド横に放置していた点滴台を押し倒した。


ガシャンッ!!とけたたましい音は、あたしの気を休めるどころか、粗暴で乱雑な感情をかき立てる。


――帰りたい。

どこに? 分からない。だけど消えたい。


ここにいたくない……っ!


簡素なソファーとテーブルが置かれたほうへ向かう。ソファーに置かれた自分の荷物をザッと眺め、その中から必要最低限のものを探し出す。


財布とコートだけでいい……!


その2つだけを持って立ち上がり、振り向いたあたしは目を見開いた。


心の奥底でブクブクと滾っていた何かが、焦燥へと姿を変える。



「……な、んで……」



病室のドアを開けて立っていたのは、ここにいるはずのない彗と、有須と、祠稀だった。