「凪……」
あたしの頬に流れたものを見て、サヤは切なさを声に乗せる。
「……凪、ねぇ……どうして泣くの?」
俯いたままサヤの顔を見ず、あたしはかけ布団に染み込む涙だけを視界に入れた。
「……逃げてるわけじゃない」
「……」
「あたしは……、頭の中が、ぐちゃぐちゃで……気持ちの整理をしたいだけだよ」
「……その理由は、話してくれないの?」
ギュッと布団を握って、背を丸める。
「ひとりで考えたいの……」
ごめんなさい。そう、か細い声で付け足すと、サヤは小さな溜め息を漏らした。
「ひとりじゃ解決しなかったから、倒れちゃったんじゃないの?」
――ああ、もう。
「しんどいなら、言っていいんだよ。何があったの? ……言ってくれないと、俺はどうにもできない」
「……フッ」
思わず零してしまった笑い。あたしは涙なんて最初から流してなかったような笑顔を浮かべ、顔を上げた。
「ははっ! 冗談だよ! もしかして信じた?」
くすくす笑うあたしの視界に緑夏ちゃんが映ったけど、完全に無視してサヤに微笑む。
「帰ってきたのは本当に気まぐれで、マンションを出たのは、喧嘩しちゃったから気まずくてっ。聞いてないの? 彗たちから」
あたしを見るサヤの目が、最初は見開かれたていたはずなのに。段々と影を落として、視線は落とされていく。
「倒れちゃったのは、まあ……そういうこと? あたしが一方的過ぎたから、ちょっと頭冷やさなきゃなーって」
明るい声が壁に反響しなくなると、病室は一気に静寂になる。
サヤはゆっくりと顔を上げ、あたしを見据えて言うんだ。
「……そっか」
そう、サヤは、それだけ言えばいい。
「喧嘩の原因は何?」
笑顔で『うん、だから大丈夫』とあたしが言うはずだった。
けれどサヤは、あたしを瞳に捉えて放さない。
いつまでも聞く、話してくれるまで、何度でも。そんな真摯な眼差しをして、サヤは言った。
「ちゃんと話して、凪」



