「じゃあ、どうして帰ってきたって連絡くれなかったの?」
逢いたくなかったから。なんて、言うはずないけど。
「フラッと遊びに来ただけだもん。ただの気まぐれだよ」
目が覚めてから初めて、笑ってみせた。そんなあたしにサヤは微笑み返してはくれない。
「気まぐれで帰ってきて、倒れるまで何してたの?」
「……」
やけに食いついてくるなとは感じても、あたしはそれさえも利用して笑う。力なく、申しわけなさそうに。
「……別に何も。分かるでしょ? ひとりになりたかったんだよ」
口元に笑みを浮かべながら、そう言った。
頑なに口を閉ざしても、全て嘘でごまかそうとしてもいいけど。それじゃあ、今のサヤはきっと納得しないと思ったから。
溜めこむ癖があって、不眠症で、だけど稀に正直に話す娘を演じてみせた。
「……だから、帰って。今はひとりになりたい」
もうこっちにいるのがバレて、会ってしまったならしょうがない。
なんとかなる。そう思ったけれど、サヤの顔は未だに険しいままだった。
「いつもそう……凪はそうやって、自分の気持ちを言う時があるのに。けっきょく誰にも……違うね。俺にだけは絶対、頼らない」
「――…」
言い直された言葉に、胸がざわつく。
サヤにだけは絶対頼らない。それは確かに、事実だった。
「凪はいつだって平気なふりして笑ってるけど……そうじゃないよね。殻に閉じこもって自分を守ってるようで、本当は傷付けてるようにしか見えない」
「……言ってる意味が分かんないよ」
そんな台詞は、カウンセラーの早坂先生から聞くだけで充分。
サヤは気付かなくたっていい……気付かないふりをしてればいい。あたしの、女の部分なんて。
「凪、ちゃんと話して……今度は何が不安なの? また眠れなくなるくらい、何を怖がってるの?」
じっと見つめてくるサヤから、緑夏ちゃんに視線を移した。わずかに肩を震わせた緑夏ちゃんは口を開きかけて、閉じる。
あたしは小さな溜め息をついて、伸びた自分の爪に目をやった。
……何を震えてるんだ、あたしは。



