「じゃあ、今日から暫く入院してもらうけど。明日から朝と昼に検温、血圧も測ったり問診に来るからね。また勝手に点滴針抜くようなことはしないように」
「……」
「すいません、ありがとうございました」
返事をしないあたしの代わりにサヤが頭を下げて、医者と看護師は病室を出ていった。
その途端に重苦しくなる空気は、あたしの口をさらに堅くさせる。
そこそこ広い個室なのに、サヤと緑夏ちゃんがいるだけで狭く感じた。
……あたしがなんでこの街にいるのか。帰ってきてたのに、なんで連絡をしなかったのか。
もしかしたら、携帯が通じないのもバレてるかもしれない。
「……凪」
背もたれが上がったベッドに寄りかかるあたしは、布団に落としていた視線を上げる。
「先生の話、聞いてたよね? もう抜け出しちゃダメだからね」
サヤが真摯な眼差しを向けてくる隣で、緑夏ちゃんまでもがあたしを見つめてくる。心配そうな、口を出してもいいか迷ってるような、そんな顔。
「……分かったから、ふたりとも帰っていいよ」
たくさんの想いが駆け廻って、かろうじてそれだけ口にした。
サヤが怒ってるのも、心配してるのも、分かっているけど。それ以上に、緑夏ちゃんがここにいることと、そのお腹が大きくなっているのを見るほうが耐えられなかった。
「……こっちに帰ってきて、今までどこにいたの?」
「……」
「答えて、凪」
「……駅前のホテル」
言いながら、あたしの頭は嘘をつく準備を始めた。
今なら、いくらでも嘘をつける。
エレベーターの前で会った時は、気が動転してたんだ。
「……どうして病室から抜け出したの?」
「だって、こっちに帰ってるの言ってなかったし。それなのに倒れちゃって、気まずいじゃん。怒られると思って、とっさに」
髪を撫でつけながら言うと、サヤは小さく溜め息を吐く。



