僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「あれ!? その髪、夢虹さん!? 何してるんですかっ!」


病室から抜け出し、エレベーターの前で俯いていると、そんな声がかけられる。


……なんでバレるかな。


よほど近くにいたのか、すぐにあたしの腕を掴んだ看護師は声を荒げた。


「勝手に点滴針抜いて! 病室から抜け出して、どこ行く気ですか!」

「もう大丈夫なんで……」

「ダメですよ! これから先生に診てもらって、暫く入院していただくんですから!」


冗談じゃない……!


そう言えなかったのは、顔を上げた瞬間、看護師の背後にサヤを見つけてしまったから。


驚きに目を見開くあたしと違い、サヤは微笑んだ。


「すみません、ウチの子が」

「ああ……お父様、お戻りになられたんですね。もうすぐ先生が診察にうかがいますから、病室に連れていってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


去っていく看護師の背中を見送ったサヤは、固まって動かないあたしに視線を移す。


「凪」


ビクッと肩を揺らすと、サヤはあたしの手を取ろうとする。それはあたしが避けたから、かなわなかったけれど。


……なんでもうサヤがいるの。仕事中だとばっかり……。


「凪、病室に戻るよ」

「……」


きっとあたしの顔は真っ青だ。なんでこんなに混乱してるのか、自分でも分からない。


「ほら、早く」


サヤは無理やりにでもあたしの手を取って、歩き出す。


抵抗しようにも、今度はできなかった。一瞬だけ垣間見たサヤの表情が、声まで、怒りを表していたから。


足元から、胸の奥底から、浸食するように迫りくる、取り留めのない何か。


それがあたしを恐怖のどん底に落として、混乱の渦に巻き込むから。うまい言いわけが、言葉が、嘘が、何ひとつ浮かばなかった。


いっそのこと、気を失いたいと思うほど。そのまま深く眠りたいと思うほどに。


サヤの手を振り払って逃げる気力は、今のあたしにはなかった。