いっそのこと彗を愛せたらよかった。こんなに大好きで、こんなにも愛しいのに。
喉から手が出るほど欲しいのは、サヤだ。
握っていた携帯への握力を緩め、顔を上げた。
辺りはいつの間にか明るくなっていて、朝焼けのグラデーションは消えている。携帯を胸に抱いたまま、広大な川に視線を落とした。
……誰よりもあたしをいちばんに想ってくれた彗だから、分かるでしょう?
サヤの愛が欲しい。あたしを女として愛するサヤが、どんなものよりも欲しいの。それ以外何もいらない。
だけど……望んではいけない。望んだって手に入らない。
だから彗、あなたの幸せをいちばんに望んだんだよ。
あたしのことを、あたしの気持ちを、誰よりも知ってる彗だから、一緒にいちゃいけない。
あたしがそばにいなければ、彗はサヤを大事にできる。
憧れて、尊敬してやまない“颯輔さん”の幸せを望むことができる。祠稀と有須と笑い合いながら、一緒にいられる。
そこにあたしは、いなくていい。……いたくない。
――あたしが始めた同居生活。始めたのがあたしなら、終わらせるのもあたしの自由でしょう?
スッと腕を伸ばして、胸に抱いていた携帯を宙に掲げる。
……こんなことばっかり。
心は未だ、あの頃に凌駕されたままで。幾度考えても、想いは螺旋状に形を描くだけで。進んでも、進んでも、元に戻る。
あたしの手によって捨てられた携帯は、水飛沫をあげて川の底へ沈んでいった。
どうして?と訊くことも、助けてと訴えることもできず。持ち主に捨てられた携帯は、ただ静かに機能を停止させる。
「……ストラップ、付いてなかったもんな」
瞬きの間に見えなくなった携帯。落ちたと思う辺りをもう一度見てから、その場を後にした。
冷たい風に乗って雪が舞う。
水の中で溺れるあたしは、いつ沈むんだろう。



