僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



今を生きるあたしはいつだって手ぶらで、振り返れば山ほどの思い出があるけれど。それが遠く、過去になればなる分だけ、廃れてゴミになっていく。


「変化も理由もないよ。ただ単に、いつの間にかそうなっただけ」

「ふーん……あ、同居人が真面目とか?」

「……ふつうだと思うけど。多分」

「多分て。一緒に住んでんのに――…」


振り返ってベッドに頬杖をつくと、見上げてくるあたしに優太は言葉を切った。


うるさいという意味を込めた微笑みも視線も、優太には伝わらない。


互いに黙ると、部屋に流れる音楽がやけに大きく聞こえた。


「……優太は今、真面目なの? それとも、いい子ちゃんのふりしてんの?」


じっと見上げられる眼差しから逃げた優太は、やがて決心したような眼であたしを見下ろす。


「凪、やっぱ……雰囲気変わったよな」


言いながら、迷うような手つきであたしの頬に触れた。


同時に近付いてきた優太を受け入れるために、瞼を閉じる。


軽く触れた優太の唇は少し乾いていたけど、熱くなる吐息ですぐにその感覚は薄れていった。



……そう。いつだって、そうだ。


引っ張りあげられてベッドに押し倒された瞬間も。電気を消してあたしに覆い被さる重みも。


服を1枚1枚脱がされながら、指や唇で肌を撫でられる感覚も。


全て明日には薄れて曖昧なものになっていく。


遠く、過去になればなる分だけ、廃れてゴミになる思い出だ。


永遠なんていらない。この、今一瞬さえあれば。瞬きほどの刹那でも、その中にさえいれば。あたしは生きていける。


それなのに、切り離せない。


色褪せていくものは確かにあるのに。そのほうが多いはずなのに。絶対に色褪せない、ひと際輝くものがゴミの中に埋もれていることを知ってる。


だけどそれは、見てはいけない。掘り起こしてはいけない。


だからあたしは好きでもない男に抱かれるし、いつだって嘘を並べる。その輝きが遠く、見えなくなるまで、ずっと。




――優太と初めて体を重ねても、その行為のどこにも真新しさはなかった。


強いて言うなら、初めはぎこちなく感じていた優太の手つきが、次第に慣れた手つきに変わっていったこと。


その程度だった。