―――…
「何見てんの?」
優太の部屋で、あたしは中学の卒業アルバムを見ていた。
「プッ……」
風呂上がりの優太へ視線を上げると、思わず吹き出してしまう。そんなあたしに「なんだよ」と、優太は少し恥ずかしそうに言いながらドアを閉める。
「髪。今見てた写真と一緒なんだもん」
ほら、とあたしが指差した写真を覗きこんだ優太の髪から、パタッと雫が落ちる。
ワックスでセットしていた髪は重力に逆らうことなく、濡れて真っ直ぐになっていた。
「つか、何勝手に見てんの」
「見られちゃマズイものでもあんのー?」
「……別にないけど」
視界から優太が消えると、すぐ背後にあるベッドのスプリングが軋む。
流行りの音楽が部屋の沈黙を満たし、あたしは気にせずアルバムのページを捲り続けた。
優太の家に着いた時、時刻は0時半過ぎ。親御さんは就寝していたから、会うこともなく優太の部屋に上がり込んだ。
今携帯をいじる優太はそれを分かって、コンビニの前でダラダラと時間を過ごしたんだろう。
あたしは何も言わなかったけど、気付いていた。
「あ、それ」
時折そんな風に、あたしが見てる思い出の1ページとやらを使って話題を作ろうとしてることも。
「……懐かしいよね。この時何かあったっけ?」
「凪と久美が補導されたちょっと後じゃん。ほら、夜中にさー…」
優太が語る思い出は、あたしにとってその一瞬を凌いだ過去でしかない。だからぼんやりとしか頭に浮かばないんだ。
思い出なんていくらあっても、なんの役にも立たない。
「今も補導されまくってんじゃねぇの?」
「この頃より真面目に過ごしてますー。遅刻だって、数えるほどしかないんだからね」
「嘘だろ! どういう心境の変化だよ」
面白そうに声を出して笑う優太に、卒業アルバムを閉じる。
心境の変化、ねぇ……。



