「……特に予定はないけど」
「ふうん」
間をあけずに言うと、視界の端で優太が一瞬だけあたしを見る。
「なんだよ、それ」
誘われるかと思った? なんて言わずに、首を傾げた。目が合った優太はグッと口を噤んで前方に視線を戻す。
「……凪は?」
「ん?」
「予定。冬休み中ずっと、こっちにいんの?」
「あー……決めてないや」
ファーのマフラーを触りながら、優太の言葉を待った。
「いればいいじゃん……ずっと」
変わってないね、優太。
中学時代の優太もそうだった。押しが強いわけじゃない。だけど必ず、あたしに対する好意を言葉に乗せてくる。
「……でもさぁ、泊まる場所がないんだよね」
マフラーに巻き込まれた髪の毛を外に出しながら、言葉を続ける。
「暫くパパが出張でいないからさ、新しいお母さんとふたりになっちゃうし」
「……」
「嫌いじゃないんだけど、まだちょっと気まずいんだよね」
ははっと乾いた笑いをこぼしながら、優太に顔を向けた。
同じくあたしを見つめる優太の表情は……どうでもいいや。欲しい言葉さえくれれば、なんだって。
「じゃあ、俺ん家来る?」
「ええ? やだな。そういう意味で言ったんじゃないよ」
「っいいから! ……親も喜ぶし、来ればいいじゃん」
たった数ヵ月しか付き合わなかったのに、喜ぶの? 嘘が下手だな、優太は。
「「お待たせー!」」
コンビニからみんなが出てきて、あたしは微笑みを浮かべる。
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
優太の前を通り過ぎながら小声で呟くと、ちょうど久美がホットココアを差し出してきた。
「あたし偉いでしょー!?」
「ぎゃー! ありがとう久美!」
喜ぶあたしの背後から聞こえた「優太、顔赤くね?」という言葉。
――どうしてみんな、気付かないんだろう。嘘をついて利用することなんて、あたしには造作ないのに。
だけど本当は、あたしが騙されてるのかもしれない。



