僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「!!」


力任せに枢稀の胸ぐらを掴む。一瞬怯えた顔をしたくせに、殴りはしない俺に権力を振り翳す馬鹿犬に吐き気がした。


「殴ってどうなるの、祠稀。謹慎くらって、夜、出歩けなくなるだけだよ」


“夜”という単語を無駄に強調する枢稀は、呆れるくらい誇らしげで、哀れなほど存在価値のない奴だと思った。


チッと舌打ちして乱暴に手を離すと、枢稀は揺るまったネクタイを締める。


……ああ。イライラする。

なんでわざわざ俺が通う高校に来てんだよ。ふざけんな。顔も見たくねえのに。


理由を考えればすぐに答えは出るけど、考えたくないのも、答えがいらないのも本当だ。


「教室に戻りなさい。俺は、優しくないよ」


ネクタイを直した枢稀は俺を見て、飄々とした様子で言う。その憎たらしさと言ったらもう。


優しくないんじゃなくて、親父の言いなりってだけだろーが。


「ほんと、アホくさ。テメェは黙って親父の靴でも舐めてろ」


言うだけ言って、俺は大きく1歩踏み出した。


「……逃げられると思うなよ、祠稀」


冷たい風に乗って耳に届いた言葉は、体温を奪って、体の芯まで凍えさせた。


……弱い。

俺はまだ、弱い。こんなんじゃ、守れない。残されたものを、救えない。


目眩が起きそうになるのを必死に堪えて、歩いた。



前へ、前へ。止まることなく。



それは、俺が唯一尊敬する人に教えてもらった、ただひとつの生き方だった。