「んじゃ、俺とりあえず威光んとこ行かねーと」

「その威光ってのは、詰まるところなんなの?」


携帯を操作しながら立ち上がった祠稀に、早坂先生は尋ねる。


「児童保護施設と自警団を足して2で割ったみたいなもんだよ」


嘘ではないんだけれど、早坂先生は思考がショートしたような表情をしていた。


「彗、お前どーする?」

「……一応、大雅先輩たちにも連絡しとかないと」

「げ。忘れてた」


祠稀と彗が話す中、あたしはさっき引っかかったことを考えていた。


なんだっけ。なんかすごく、あれ?って思ったことが……。


――ピンポーン。


頭を悩ませ始めた途端、家の呼び鈴がリビングに響く。


壁の時計を見ると、時刻は夜9時を回っていた。今言ってもしょうがないけど、なんて気の抜ける音なんだろう。


「めんどくせぇな……誰だよ」

「遊志先輩たちじゃない?」


祠稀と彗の会話を聞きながら、あたしは仕方なく立ち上がった。


受話機を耳に当て、「はい」と言いながら訪問者をモニターに映すためのボタンに指を向けた。その刹那。


『あ……その声、有須ちゃんだよね』

「―――……」


ボタンを押す指が止まるどころじゃない。受話機を、落とすかと思った。


『俺のこと分かるかな。夜分遅くにごめんね』


ドッと冷や汗が出る。震える指でボタンを押した数秒後、モニターに映った人影。



「颯輔さん……」

『あ、当たり~! 分かってくれて嬉し……じゃなくて! 急にゴメンね! ちょっとお邪魔してもいいかな?』

「誰? どこのどいつ――…」


隣に来た祠稀が息を呑む。あたしは受話機を耳に当てたまま、ズルッと1歩下がった。


モニターに映る颯輔さんから逃げるわけにも、帰ってもらうわけにもいかないのに。


……早坂先生がいる。……凪はいない。


どうして今ここに、颯輔さんが――…!


「あー、俺、祠稀ですけど」


受話機を取り上げられ、あたしはきっと泣きそうな目で彗を見た。彗もまた、驚愕を目に表しながらこちらを見ている。



――12月下旬。記録的な積雪となった日の夜は、とてもとても長いものだった。