「ほっといて学校で会えるのを待つのもいいけど、不眠のことがあるからそれはできない。もっとも、眠れない原因である颯輔さんのことをどうするのかが問題だしね」

「……それを考えるんじゃないんですか?」

「だろうね。君たちに知られただけで家を出るってのは割に合わない。まあ彗のこともあるし、知られたくなかったってことに違いはないだろうけど」



義父である颯輔さんを愛してるということ。その事実を知る人間が増えたことで、凪の閉じ込めていた想いが溢れてぐちゃぐちゃになってしまったような気がする。


だから、悩むにしろ整理するにしろ、きっと凪は颯輔さんへの想いに何かしら答えを出そうとしてるんじゃないかな。


誰にも頼らずひとりで、自分の想いを誰も知らない場所に……。


――あれ?


「ああもうめんっどくせえ!!」


祠稀の大声にビクッと肩を跳ねさせると、何か引っかかった思考が飛んでいく。


「凪があーだこーだ考えたくて家を出んのは勝手だけど、俺らまでごちゃごちゃ考えなくていいんだよ! めんどくせえ!」


に、2回もめんどくさいって言った……。


「けっきょく俺らが探しても探さなくても、冬休みが有ろうと無かろうと、3週間経っても凪がここに帰ってくる可能性はねぇってことだろ!?」

「……そうなるね」


いつもと変わらぬトーンで彗が返すと、祠稀は大きく溜め息を吐く。


突然の大声に鼓動が脈打つ中、祠稀の耳から口元に繋がるピアスのチェーンが小さく揺れた。


「凪をこの家に連れ戻す。それ以外の目的はいらねえ」


単純明快。実際とても複雑で、たくさんの物事が絡まってる中、祠稀が出した答え。


……あたしたちには、それくらいがちょうどいいのかもしれない。


考えすぎて足が縺れてしまうよりは、たったひとつの目的に突っ走るほうが、合ってるのかな。


とりあえず、今は。


「そうだね」


あたしが笑うと、彗も静かに笑った。



――ヒカリさんに伝えることはできないけれど、また会う機会があったらリュウさんとユナさんに言ってみよう。


祠稀はきっと、ヒカリさんに誇れる生き方をしてますよって。