「このクラスの、日向 祠稀のお兄さんでもある」
両ポケットに手を突っ込んで、ダルさ全開で椅子に座る俺は、一斉にクラスメイトの視線を受ける。
「え? マジで?」
「祠稀って頭よかったっけ?」
サッカー部繋がりの奴が言うと、枢稀が早々と口を開いた。
「祠稀はめんどくさがりなだけで、本当は頭いいんですよ」
「げーっ! マジかよ祠稀!!」
んなわけねぇじゃん。できるか、勉強なんて。
「……こんな場でなんだけど、元気だった? 祠稀」
――ああ。その張り付いた笑顔の仮面、皮膚ごと剥がしてやりてぇ。
「アンタは相変わらず、犬みてぇだな」
口の端を上げ、そのまま視線を逸らした。
「何それーっ」と分かっていないクラスメイトは笑っていた。
枢稀の笑顔が一瞬、引き攣ったのを俺は見逃さなかった。
ざまあねぇ。
親父の言い成り。親父の手下。親父の駒。
お前を相手にして、俺が負けるなんて思ってんじゃねぇよ。
その後いっさい目を合わせることも会話をすることもなく、枢稀は教室を出ていく時、俺のほうを見た。
昔のように、行き場のない憎しみと、怒りを込めた瞳で。



