「ずっと彼女も……いないと思ってた、から……ビックリしたけど、サヤが幸せなら、嬉しいよ」
「……凪」
「ずっと、思ってた。サヤが彼女作らないの……あたしが、邪魔だからだって」
「っそんなこと思ったことないよ!!」
バカなサヤ。嘘でも邪魔だったと言ってくれれば、まだマシだったのに。
なんでサヤが涙目なのか分からない。あたしの頬を滑る水が、本当に嬉し涙だと思ってる?
幸せな人。
社長で人望も厚くていつも人に囲まれて、将来を共に考える恋人がいて、娘に祝福されて。もう他に欲しいモノも、これ以上の幸せもないでしょ?
――そのまま一生、幸せでいてよ。
あたしがふたりの間に入れないように。
サヤの幸せを願える娘で在り続けられるように。
「今までありがとう。幸せに、なってね」
迷惑をかけたくないと言いながら、あたしはきっとたくさんかけた。恩返しがしたいと言いながら、あたしは何も返せてない。
今のあたしが親不孝のバカ娘だと言われるなら、これが最初で最後の恩返し。
「凪も一緒だよ……俺たちだけの話じゃないんだから」
「……うん、そうだね」
涙を拭って、鼻を啜る。いい子の凪を完成させるのには、もうひと押し必要だったから。
「緑夏ちゃん」
突然声をかけたあたしに、緑夏ちゃんは大袈裟に思えるほど肩を跳ねさせる。そこでおかしそうに笑ってから、自らの小首を傾げた。
「サヤを、幸せにしてくれる?」
「も、もちろんです! 凪ちゃんも、一緒に……私なんかでよければ……」
滲んだ涙をグッと堪え、あらゆる感情をこの時だけは押さえ込んで、あたしは頭を下げた。
「サヤを、よろしくお願いします」
まるで娘を嫁にやる父親の台詞。それでも、あたしはサヤに引き取られて育ててもらった身だ。
サヤは全てを捨てて、自分の幸せよりもあたしのために生きてくれたのだから。
「凪ちゃん……顔上げて、そんな……」
――幸せだった。
充分、幸せだった。
だったら今度は、あたしがサヤの幸せを祈る番でしょう?



