「凪。俺はこの先、緑夏ちゃんと凪と暮らしていきたいと思ってる」
――未来が、壊れた音がした。
たかが順番で。あたしより先に緑夏ちゃんの名前が出ただけで。
緑夏ちゃんはこれから先“妻”になって、あたしは永遠に“娘”の位置だと言われた気がした。
「凪は、どう思う?」
見たくない。
喋らない緑夏ちゃんが、あたしにまで伝わるほど緊張している姿も。
サヤが申しわけなさそうな顔をしてるくせに、絶対に引かない強い瞳を向けてくるのも、見るに堪えない。
「……凪……」
ぼろっと落ちた涙は、拭うことも隠すこともごまかすことも手遅れで。息を吸った瞬間、吐き出すことが困難になった。
後から後から視界には涙が浮かんで、落ちて。そのたびサヤの顔が見え隠れする。
「な、」
「ッサヤ!」
よかった。緑夏ちゃんが、サヤがあたしに伸ばした手を止めてくれて。
今、サヤがあたしに触ろうものなら何をするか分からない。
罵声を浴びせるかもしれないし、泣き喚いて想いを告げてしまうかもしれない。
――壊れない。このふたりは何があっても。
そう漠然と、でも確実に思わせた。
俯いて歯を食い縛って、目を閉じて、膝の上で握っていた拳をさらに強く握る。
いろんな、たくさんのサヤとの思い出が浮かぶのに、思い出は過去でしかない。
止まらない時間はあたしとサヤを引き離して、サヤと緑夏ちゃんを結ぶ。強く、強く、もうどうしようもないほどに。
「おめでとう」
涙を瞳いっぱいに溜めて、できる限りの笑顔で言った。
「よかった……お母さんが死んでから……サヤ、あたしと仕事ばっかり……で」
嫌だ。なんでこんなこと言わなきゃいけないの。



