「早坂の家はゆっくりできた?」
「うん、それなりに」
「顔色もいいみたいだし……よかったですね社長」
「そんな人を病人みたいに言わないでよ」
「そんな! でも本当に元気そうでよかった。私も社長も心配してたんだよ」
嘘つけよ。
そう内心では毒づくのになんで笑ってるんだろう、あたし。
これじゃあ何も変わってないじゃん。
何、この家族ごっこ。
あたしがあんなものを見たとも知らず、サヤも緑夏ちゃんも変わらない。あくまで社長と社員を貫き通すのか。
―――馬鹿にしてる。
何か言ってくれるかと思ってた。付き合ってるんだとか、何かあたしに言うことがあるだろうに、ふたりは隠して、自分たちだけ楽しむつもりか。
ふざけんな。別れてしまえ。
「夕飯は? 食べてきた?」
「あー…うん、ごめん」
「じゃあ明日の朝一緒に食べようね」
3人で仲良く食卓を囲んで?
吹き出しそうなのを我慢して、あたしは緑夏ちゃんに微笑んだ。
「お風呂沸かしてくるねっ」
すっかり主婦みたいな緑夏ちゃんに、その後ろ姿を嬉しげに見つめるサヤ。
甘ったるい空気。何これ。今まで気付かなかったあたしが、どうかしてた。
「なーぎ、ココア飲む?」
腰を折って、あたしの顔を覗くサヤの顔は溶けそうなくらい笑顔だ。
今までなら、あたしだけに向けられた笑顔だと思えたのに。サヤの心にいる人が、そうさせるんだ。
「アイスココアがいい」
「了解。その間に部屋に荷物置いといで」
ぽんぽんとあたしの頭を撫でるサヤの手。胸が締め付けられて、それ以上に張り裂けそうなほど痛んだ。
「……ねぇ、彗から手紙きた?」
「……、ううん」
「そっか」
眉を下げるサヤにそれだけ言うと、床に落ちたままの鞄を拾ってリビングを出た。



