「帰るよ、明日の夜」
土曜は午前中だけ仕事の早坂先生の背中に言うと、靴に向けていた視線があたしへと移った。
「顔だけ見せに?」
「ううん、帰る」
「ふーん。どういう心境の変化で?」
「早坂先生のおかげで?」
目を丸くした早坂先生はすぐに「嘘つけ」と言って、あたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「だから今日は、いっぱい奉仕すんの」
「それは楽しみですねー」
相変わらずの棒読みだけど、口の端は上がっていた。
「いってらっしゃい」
ドアノブに手をかけた早坂先生に言うと、その動きが止まる。
不思議に思って首を傾げると、早坂先生はあたしの顔を見て深い溜め息を吐いた。
「家事もできるし美人なのに……せめて18だったらいいのにと思うよ」
「……ロリコン。変態」
「お前はひとりに依存し過ぎんなよ」
クッと喉を鳴らしてから、ついでに言ったような言葉にギクリとした。
それでもあたしは笑みを作り、再び「いってらっしゃい」と早坂先生を見送った。
相変わらず鋭いのか、ジョークなのか区別しづらい。
問い質すことも、追い詰めることも簡単にできるだろうに、早坂先生はそれをしない。
会話の隙間に、まさに先ほどのようにあたしの本質を滑り込ませるだけで、当たりだろう?なんて自慢げなことも言わない。
逆にそれがどっちつかずで怖くもあるんだけど。
良くも悪くも、あたしはそういうところが好きだった。
「……さて」
洗濯物が溜まっていたはず。他のことは何も考えず、早坂先生が帰ってくるまで家事に没頭しよう。
静寂になったリビングに、脚が竦まなくてもいいように。



