「……」
――ああ、もう。
自分の馬鹿さが、ガキ臭さに腹が立つ。
リビングへ続く廊下を見て、ゆらりと体を起き上がらせた。
思いのほかちゃんと動いてくれた体は、玄関近くにあるトイレへと向かう。
『……生理になっちゃって』
クッと喉を鳴らしたあと呟いた言葉は、まるで他人の声みたいだった。
「なってねぇじゃん」
トイレの角にある、ナプキン用のゴミ箱。そこに在るはずのモノは、影も形もない。
『今日は社員たちと飲み会でね~』
どうりで早々と風呂に入って、なおかつご機嫌だったわけだ。飲み会すら嘘か。
ふたりで仲良く帰宅して、あたしが早坂先生の家に行ってる間、シーツを汚すくらい激しいことでもしてたわけね。
――いつもだったら。早く帰ってくるなら、真っ先にあたしへ教えてくれていたのに。
言わなかったということは、知られたくなかったということで。
あたしが、邪魔だったってことでしょう?
ふたりになりたくて。今、廊下にお互いの服の一部が落ちてるみたいに。
我慢できず、獣のように。お互いを貪りたくて仕方なかったんでしょう?
叫びたかった。
頭を抱えて、髪の毛を掻き毟って、声が枯れるまで泣き叫びたかった。
あたしがひとりの女で、ただの男を好きになっていたら、そうしたと思う。
だけど、本当にいらない僅かな理性がそれを止めた。
行き場のない感情をトイレにでも吐き出せたら楽だろうけど、それは鉛のように重く、分離を妨げる楔となる。



