「……サヤ……」
耳を塞いでいた手を下ろし、強く瞑っていた瞼を開ける。
静かに零れた涙は、砂漠に落ちた一雫のようなもので。緑夏ちゃんの嬌声と軋むベッドの音は、あたしの想いを虚しく灼熱へと変えた。
ねぇ、サヤ。
あなたを、あたしだけのモノにしたい。
――どうして、こんなことになったんだろう。
ふたりはいつから、想いを育んでいたんだろう。
あたしが知らぬ間に。あたしが家にいないのをいいことに。まさか見られるなんて思わずに。
いつから? 最初から?
緑夏ちゃんがうちに来た時、笑い合うあたしたちを見て嬉しそうに見ていたサヤは、何を思ってた? あたしをいい子だと、思ってた?
――違う。
“これから”仲良くやっていけそうな雰囲気に、喜んでいたんだ。
あたしが好きなタイプをサヤと言ってしまった時、緑夏ちゃんが驚かなかったのも……。
サヤは誰に対しても友好的だから? 最悪、あたしのことも本当の娘じゃないと公言しててもいい?
――違う。
もし本当にそうだったとしても、緑夏ちゃんは事情が違う。その他大勢の社員とは、全く別物だ。
彼女だから。この先、一緒にいたいから。サヤがきちんと話したんだ。
あたしが本当の娘でないことも。あたしがパパではなくサヤと呼んでいることも。
「……っ」
短く浅くなる呼吸が苦しくて、自分の首を掴んだ。
笑える。考え直したって、今さらでしかない。何が、家にいたくないだ。あたしのためと、サヤのためとしたことが、結果これ?
サヤを好きかもしれないなんて思ってはいけないから。血が繋がらなくても家族というサヤの想いを踏み躙ってはいけないから。早坂先生を最大限に利用したのに。
自分の首を絞めて爪を立てても、胸の痛みにも苦しみにも敵いはしない。
座ったまま前のめりになるあたしは、床に頭が付かないよう顔を背けた。



