僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「……っ、待って、苦し……」


息も絶え絶えに、それでも甘えたような声を出すのは、明らかに緑夏ちゃんだった。


薄暗い部屋の中では輪郭がぼやけているけれど、ベッドの上で緑夏ちゃんが寝転んでいることは分かる。


女の体を晒して、女の声を出して。潤んだ瞳で、サヤのことを誘惑してるんだ。


ドアを、蹴飛ばしてやろうか。



「待てない……」



――息が、止まった。


壊れかけた機械みたいに、ギシギシと首を回す。


「え……待っ、あっ―――…!」


再び捉えた光景に、あたしはよろりと後ろへ下がった。壁を背にして、限界まで見開かれた目は床を一心に見つめる。


――――何。


何、なんなの。なんでサヤが……!



『待てない』



嘘だ。嘘、そんなの聞き間違い。


だって、緑夏ちゃんに無理やり迫られたとか。緑夏ちゃん顔はかわいいから、騙されちゃったんだよね?


それか、ホラ。ドラマとか漫画みたいに、弱味を握られたから仕方なくとか……そうでしょう?


ねぇ、そうでしょう?


大丈夫、あたしが助けてあげる。

あたしが目を覚まさせてあげるから。だから――……。




「……はは」


ズルズルと壁を擦って床に腰を落とすと、震える両手で耳を塞いだ。


目を瞑って、奥歯を噛み締める。なんの意味もないけれど、足が動かなくて、そうする他なくて。


耳を塞いでも、目を閉じても。荒れる息が、色を含む囁きが、脳裏にこびり付いて離れない。



馬鹿なことを。


サヤが、人に騙されるわけないのに。緑夏ちゃんが人を騙すなんてできそうもないのに。あたしは、馬鹿だ。


サヤを助けてあげる必要も、目を覚まさせてあげる必要もない。


そんなものはあたしの願いで、サヤが緑夏ちゃんを好きだと言う事実を否定したかっただけ。



――あたしを好きになって。


もう曖昧になどできないくらい、はっきりと分かってしまった。


理性も建前も捨ててしまえば、残る本音はただひとつ。