「早坂先生がどんな人か、サヤのほうがあたしより知ってるじゃん。それでもダメって言うなら……諦めるけど」
やっぱりあたしって演技派なのかも。
サヤの戸惑っていた顔が、みるみる申しわけなさそうになっていく。
「や……うん……ダメじゃないよ。ダメじゃないし、早坂は捻くれてるけど基本いい奴だし……」
葛藤してる。次にくる言葉もきっと、予想通りだと思う。
「でも凪はいい子で美人だからさぁぁああ! 心配なんだよー!」
「サヤに伝授されたチカン撃退法使うから平気だよ」
「ああ、アレね……凪に手なんか出したら、地獄見るだけなのにね」
一度も役に立ったことはないけどね。
そう思ったけど言わずに、今週の土曜に泊まりに行くとだけサヤに伝えた。
「ねぇ凪、早坂のことは好き?」
リビングを出ようとしたあたしの背中に、今度はサヤが問いかける。
まるであたしが、他に好きな人はいないような訊き方。
「好きだよ? サヤと、友達と同じくらい」
笑顔で振り向き、サヤの言葉を待たずにリビングを出た。
……サヤは間違ってない。
あたしがひとりで抱え込んで悩むのは、それを打ち明けられる人が周りにいないと分かってる。
あたしにとって、仲良くするのと信用するのは別だ。
仲がいいと思える友達はいくらでもいるけど、信用してなんでも話せる友達なんていくらもいない。今のあたしにとっては皆無だ。
サヤはそういう存在を、あたしに持って欲しかったんだと思う。彗はそばにいないから、だから早坂先生を紹介してきた。
早坂先生は好きだし、サヤが望むことは叶えてあげたい。
早坂先生といれば寂しくないし、それでサヤも安心するなら一石二鳥。
……なんて、自分の行動理由を細分化している自分が馬鹿らしい。
今のあたしの行動原理は、家にいたくない。たったそれだけのはずだ。
「……頭イタ……」
家にいたくない。自分のために、サヤのために。そう思っていたのに、自分で自分の首を絞めていたなんて。
それに気付いた瞬間は、本当に突然だった。



