「ただい、ま……」
鍵がかかっていたから誰もいないと思っていたのに、サヤと緑夏ちゃんの靴があった。シューズラックの上にある時計を見ると、10時半過ぎ。
緑夏ちゃんはいいとして、サヤも帰ってきてるなんて珍しい。ローファーを脱ぎ廊下を進むと、洗面所のドアが開いていた。
「……ただいま」
「あ、お帰り! 今日も早坂さんのとこ?」
「うん……ごめん、朝全部洗ったと思ってたんだけど、洗濯物残ってた?」
「あ、違う違う! シーツ汚しちゃって!」
……シーツ?
緑夏ちゃんは洗濯機の前に立っていて、不思議さから首を傾げる。
「あ、あの……生理になっちゃって。朝……時間なかったから」
「……ああ。痛いね」
小さな声で言う緑夏ちゃんに納得すると、「ご飯食べる?」と訊かれた。
「ううん。お風呂入って寝る」
「そ? 分かった」
……すっかり、この家の人って感じだな。……どうでもいいけど。
「……」
洗面所から出て部屋へ向けた脚を、リビングへ向ける。
案の定サヤは書斎ではなくリビングにいて、あたしの姿を確認するとパッと顔を明るくさせた。
「凪! おかえり~!」
「ただいま」
サヤの髪は濡れていて、お風呂は済ませたことが見て取れる。
「……今日早かったんだね」
「うんっ! 今日は社員たちと飲み会でね~。ほぼ全員、無理やり5時に上がらせて、飲んで来たよ!」
……お酒なんて珍しい。やけにご機嫌だし、何かいいことでもあったのかな。
「凪は? 早坂のとこ行ってたんだよね?」
「あー、うん。……今度泊まって来てもいい?」
にこにこ笑っていたサヤの表情が、一瞬で固まる。
「そ、それはどうだろう?」
「変な心配してるなら、やめてね。ありえないから」
「そ、それもどうだろう?」
心配だから渋って、そんな気配がないのも微妙ってこと? 親バカにもほどがあるし、ダメと言われても泊まりに行くつもりだけど。



