「つーか真面目な話、ちゃんと寝てんの?」
ラジオも音楽も流れない車内は走行音だけが響く。助手席に座っていたあたしは、窓の外から運転席へ視線を移した。
「それなりには」
「ならいいけど。丸3日寝れなかったら病院な」
……さすがに3日間寝れないとかはないと思うけど。自分がいつ寝たのか、分からないときがある。
「そういやアレ、ほら、いとこからメール来たわけ?」
「彗? ……こないよ。気配すらない」
「ははぁん。毎夜、携帯握り締めて枕を濡らす夜だな? かわいそイッテ!」
力の加減も分からないまま早坂先生の頭を叩くと、予想外に大きな音がした。
それでも謝らないでそっぽを向くと、「すぐ拗ねる」と腹立つ言葉。
「きっと理由があるんですー!」
「そしてまた手紙を書くわけね。ほんっと好きだよな、彗のこと」
「大好きの間違い」
「そうですか。ハイ着きましたよ」
早坂先生はハザードランプを点け、あたしがシートベルトを外すのを見て口を開く。
「嫌いな人間っていないの?」
「……いないけど、何いきなり」
「いや? ただの質問」
……あたしには問診に聞こえるんだけど。そのたびあたしという人間を解析されてる気がしてならない。
「送ってくれてありがとう」
膝に置いていた鞄を肩にかけ、ドアを開けながらマンションを見上げる。ポツポツと明かりが点いてる家もあるけど、あたしの家は真っ暗だろうか。
「……ねー。今度泊まっていい?」
「は?」
振り向いて少し身を屈めると、早坂先生は間抜けな声を出した。
「……別にいいけど、そーすけさんに言えよ。あと布団、俺のしかねぇぞ」
「ウチにあるから持ってく。ていうか持ってって、今度」
「いよいよ私物を置き始める気か」
笑ってごまかすと、早坂先生は口の端を上げただけだった。
「気をつけてね」
「おー。ちゃんと風呂入って寝ろよ」
返事の代わりに微笑んでドアを閉める。発進した車を見送って、マンションの入り口へ向かった。
涼風が頬を撫でた夜。変わりゆく季節は、荒々しい台風を招き始めていた。



