―――…
「凪、そろそろ帰る時間だろ」
「んー」
9月某日。肌触りのいいカーペットの上に寝転がりながら返事をすると、ソファーで雑誌を読んでいた早坂先生が片眉を上げる。
「送ってやるから準備しろ」
「やったー」
「ありがとうございますだろ」
外はもう暗く、時刻も10時を回ってる。あたしは早坂先生と知り合ってから、ほぼ毎日こうして会っていた。
学校が終わったら直で来る日もあれば、久美たちと遊んでから来る時もある。
「つーかまぁ、よく毎日毎日来るよな」
「何さ。いつでもどうぞーって言ってたのは先生じゃん」
エレベーターに乗り込むと、早坂先生は閉まるドアを見つめながら笑った。
「いやぁ? まあ、思惑通りならいいんじゃない」
まるでサヤを安心させたいがために通っていると、分かってるような口を利く。
どう解釈しようと勝手だけど、あたしはあくまでも寂しさを主張した。
「家にいたってどうせひとりだし。つまんないじゃん」
わざとらしくあたしの顔を覗く早坂先生は、「ふぅん」と言いながら頬に触れてくる。
「まぁ元気っぽいけど……凪は演技派だからなー」
にやりと嫌な笑い方をするから手を叩き落としたのに、今度は頭を撫でられる。それはもう、ぐしゃぐしゃと乱暴に。
「かーわい」
睨み上げるあたしをかわいいと言うのは、きっと顔が赤いからだろう。
悔しいからドアが開いた瞬間横腹を殴り、逃げるようにラウンジへ向かった。のに、大きな腕が首に回って、「なぁぎぃ~」と、怒った声と共に後ろに引き寄せられた。
「あははっ!」
「笑いごとじゃねぇ! イテーよふつうに!」
大きい手、温かい体温。いつもひとりだった時間を共有してくれる。
サヤを安心させたい。寂しさを埋めたい。そんなもの関係なしに、今のあたしにとって早坂先生は、とても助かる存在だった。



