エレベーターで13階へ上がり、早坂さんの家へお邪魔する。
「適当に座ってください。ココアはないんで、珈琲でいいですよね」
「砂糖とミルクたっぷりがいいかなぁ」
「はいはい」と言いながらキッチンへ入った早坂さんと、慣れたようにリビングへ向かうサヤ。
あたしはひとり立ち止まったまま、手に持っている箱の存在を思い出す。
「あの……これ、お土産です」
「ああ、ケーキ? そこ置いといて」
なんか……取っつきにくい人だな。
「凪ちゃんは?」
「え?」
ケーキを置く手を止めると、早坂さんは自分が持つグラスに視線を落とした。
「あ、と……珈琲で大丈夫です」
「マジで。中1で飲めんのか。あ、皿とフォーク適当に持ってって」
……サバサバしてるけど、悪い人ではないっぽい。多分。
ケーキが入った箱を置いて、食器棚からそれらしい皿とフォークを持ちリビングへ向かう。
サヤはソファーへ腰かけていて、テーブルに皿を並べるあたしの姿を見ながら微笑んでいた。
「……何ニヤけてんの」
「いやぁ。お手伝いする凪、偉いなぁーと思って」
「……ふぅん」
……いつもどうやって会話していたのか、忘れてしまっている。何を言っても、どう返しても、全て間違っている気がして怖い。
サヤのことを好きかもしれないなんて、気付かれてはいけないのに。
意識するほど焦りが募り、あたしは優太と別れてから今日まで、まともにサヤと会話をしなかった。
「お待たせしましたー」
「ありがとー!」
3人分のグラスが乗ったトレーとケーキの箱を持ちながら、早坂さんは腰を下ろす。手際よく3人分の珈琲が置かれ、サヤの前にだけ砂糖とミルクが大量に置かれた。
「凪は何個使う?」
「ううん、大丈夫」
「ブラック飲めんの? スゲーな」
驚いた顔をした早坂さんに「一応」と返事をして、好きでも嫌いでもない珈琲を口に含む。サヤも驚いているようだけど、見えないフリをした。
……家ではココアしか飲まないもんな。



