僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ



「凪? 入るよ?」


逃げるように部屋へと戻ったあたしのもとに、スーツを着たサヤが現れる。


スラッと伸びた二本の脚が近付き、ベッドにもたれかかるあたしの目線に合わせ、サヤは床に膝をついた。


「ダメだよ、ベッドに入ってなきゃ」


眉を八の字にして笑うサヤは、あたしが手に握る携帯を見てから話を切り出す。


「凪。今週の土曜、俺と出かけよう」

「……びょーいん?」


蚊の鳴くような声で聞くと、サヤは少し目を見張ってから僅かに口の端を上げた。


「そうだね。でもその前に会わせたい奴がいるんだ。きっと、凪も気に入るよ。……空けといてくれる?」


目を合わせず頷くと、あたしの名を呼ぶ穏やかな声。見るとサヤの手が伸びてきていて、あたしは俯きそれを受け入れた。


「ありがとう。今日は、早く帰ってくるからね」

「……うん」

「家事はしなくていいから、大人しくしてるんだよ?」

「……うん、大丈夫だから。遅刻するよ」


もうサヤが家を出る時間は過ぎている。だから言ったのに、サヤはもう一度あたしの頭を撫でて微笑んだ。


「自分がしんどい時に、気を遣うことないのに」

「……」

「いい子だね、凪は」


グッと息を呑み込み、サヤから視線を逸らす。


「……いってらっしゃい」

「うん、いってきます」


サヤが部屋を、緑夏ちゃんと家を出るまで耳を澄ませた。


鍵が閉まる硬質な音が聞こえた途端、あたしは長い長い息を吐く。


強く携帯を握り締めていた手が蒸れている。おもむろに指を解いて携帯を開けば、瞳に映るのは質素な文字。


夏休みが明けて1週間程度。


携帯が受信したのは、優太からの別れのメールだった。


そろそろ言われるだろうと思っていたから、驚きはしなかった。


だけど、あたしは胸を抉られた気分。


別れようと告げられて、涙も出ない。悲しくも切なくもない。それが逆に痛みとなって、傷をつくる。