「忘れてた! 緑夏ちゃん!!」
「はい!?」
ソファーに沈むようにしていた体を起こすと、あたしの大声に緑夏ちゃんが玉ねぎを持ったまま目を丸くさせる。
「ごめん、あたし今日お泊まり会なんだ」
「えっ!?」
玉葱が落ちた音がして、あたしは顔の前で手を合わせた。肘が肩と同じくらいの高さまできてるのはこの際無視する。
「ごめん! 久美たちと約束してて……だから夕飯いらないし、明日の夕方まで帰ってこないんだ!」
すっかり忘れていた。優太の両親が意外にも気さくで、一緒に夕飯を食べようという話になったことを。
遅くまで一緒にいるかもって久美に話したら、じゃあそのあとみんなで集まって、久美の家に泊まろうって話になったこと。
「ごめんね。夕飯の材料買ってきてくれたのに」
申しわけなさから眉を下げると、「ううん!」と言う声と色んな物が落ちた音がする。
「だ、大丈夫?」
「うん! ははっ、外暑かったから、急に冷えて水滴が……滑って大変」
どちらかというと緑夏ちゃんのほうが暑そうだけど、とりあえずあたしは準備をしなきゃいけない。
ソファーから腰を上げると、落としたものを拾っていた緑夏ちゃんが顔を見せた。
「あの……社長には言った?」
「や、まだ。あとで連絡しとくよ」
変な誤解されそうだけど、一応言っておかなきゃ。
携帯を開きながらキッチンの横を通り過ぎるあたしは、「そっか……」という緑夏ちゃんの声を聞き流してしまった。
リビングを出てから、今何か言ってたかなと思う程度だったのに、やけに耳に残った声音だった。



