だから、少しずつでいいから。
サヤに甘えて、自分で感じる距離を縮めて、寂しさと独占欲を感じない程度に、素直になればいい。
そうすればきっと、緑夏ちゃんが同居している内はうまくやっていける。
うまくやっていきたい。
緑夏ちゃんは、サヤの仕事のパートナーなんだから。
そう、だからきっと。
あたしが“サヤ”と呼んだことに緑夏ちゃんが反応を見せなかったのは、そのせい。
サヤは誰に対しても友好的だから、社員にだってそうなんだろう。
『社長じゃなくてサヤでいいよ~』ぐらい言ってたってなんらおかしくはない。
最悪、あたしのことも本当の娘じゃないと公言してたっていい。
ふたりの秘密ではなくなるけど、思えば彗もおじいちゃんも、サヤの両親も親戚も知ってるんだ。
ならばあたしは、この家だけあればいい。どうせまた、サヤと2人暮らしに戻るのだから。
またあたしだけが、29歳のサヤを見られる。そんな未来が待っているなら、何も厭わない。
あたしはそうやって、自分で考えて導き出した答えに満足していた。
そうなると、信じていたから。
何も不審に思わず、疑惑も危機感も持たず。
未だ心奥の想いに気付かぬまま、来たる未来に思いを馳せていた。
あたしとサヤだけの未来ではなかったと、知らぬまま。



