「……緑夏ちゃん、ありがとう。俺は少し、凪と話すから」
「あ、はい! ……凪ちゃん、お大事にね」
あたしは僅かに顔を上げて、部屋を出て行く緑夏ちゃんに笑顔で軽く頷いてみせた。
そんなものは偽善でしかなくて、罪悪感がないわけじゃないけれど、密室になった瞬間どうでもよくなる。
「さて……お姫さんは俺とふたりで何を話したかったのかな」
「……」
「それとも、話したくないけど何かあった?」
当たってるようで、当たってない。
別に会話なんていらないし、ただふたりの空間にいたかった。
聞きたいことはあるけど、怖くて聞けない。
……ねぇ、サヤ。
外で、あたしのことを本当の娘だと言ってるはずなのに。
あたしがパパと言わずサヤと呼んだのに、どうして緑夏ちゃんは平然としていたの?
緑夏ちゃんは、サヤが誰だか知ってるの?
あたしと血の繋がりがないと、知ってるの?
2人の秘密じゃなかったの?
「……ダンマリはあんまり好ましくないけど……まあ、いっか」
――またあの感覚。
ドロドロとした、意味の分からない苛立ちのような感情。それが心の奥で回って回って、吐き出し口が見つからず、消えないままだ。
「……ん?」
布団の中から出した手でスーツを握ると、サヤは目を細めて微笑む。
「どーしたの? 手、握ってほしいの?」
そう言いながら答えも聞かずに、あたしの手に指を絡めてくる。
奪われたくない。
その言葉が脳裏を掠めた瞬間、胸に渦巻く感情が独占欲だと気付いた。



