「緑夏ちゃんごめん、俺の部屋のドア開けてもらっていい?」
体から力が抜けたあたしを、サヤは難なく抱き上げる。
父親がまだ幼い子供にするようなそれは、あたしとサヤには当てはまらない。
それでもあたしはサヤの首に手を回して、身を委ねた。
「ありがとう」
……そうだ。
“ここ”は、あたしとサヤだけの秘密基地。
父親ではない29歳の男の人。その姿を見られるのはあたしだけのはずなのに。ふたりの秘密で、ふたりだけで共有できるものなのに。
「凪ちゃん、大丈……っ」
なんで緑夏ちゃんが、見てるの。
「ほら凪、布団入って」
久々のベッド。小学生の時はよくサヤのベッドで寝ていたけれど、中学に入ってからは初めてだ。
黙って横になると、サヤは布団をかけてくれた。そのままあたしの顔にかかった髪を指で避けてくれて、ベッドに浅く腰掛ける。
何も言わずあたしを見つめる瞳は、まるで宝物を見るような目つき。
ほっとする。
サヤの瞳に自分が映ってるという事実に、これ以上ない安心感を覚えた。
「寝るまでそばにいるよ。それともお喋りする?」
確かあたしは気持ち悪いと言ったはずだけど、サヤは体調的なものじゃないと分かっている。
昔からそうなんだ。あたしが健康じゃないというなら、きっと悪いのは体ではなく心。
幾重にも重なる強がりの奥は、多分とても弱い。
そしてそれを見ることが許されたのは、サヤだけ。
「……ドア閉めて。……うるさい、テレビ……」
緑夏ちゃんが開けてくれたままのドア。密室ではない空間に、リビングからテレビの音が微かに入り込む。
もっとも、不快なのはそれではなく、ドア付近で立ち尽くした緑夏ちゃんなのだけど。
サヤには伝わる。遠回しに言った本音が。



