「あとココアひとつ! はい、アイスで。お願いしまーす」
大音量に合わせて歌う友達の声を聴きながら、革張りのソファーに膝を立てて受付への注文を終える。
「ありがと凪!」
斜め向かいに座る久美が声を張り上げ、返事の代わりに笑顔で頷いて見せた。
そのままソファーには座らず床へ踵を付けると、隣に座っていた優太が見上げてきたのが分かる。
「トイレ行ってくんね」
目が合ったから告げると、優太は「あ、俺も」と立ち上がる仕草を見せた。
特に返事をしないまま部屋を出ると、微かに音は聞こえるものの一気に静かな空間になる。
「部屋、広すぎるよな」
「ん? ああ、いいじゃん。広いほうが」
振り返ろうとすると、優太はすでに隣に並んでいた。
「ま、8人もいりゃ大部屋だよな、フツー」
「6人だったらギリ狭い部屋に案内されただろうねー」
「……俺は別に、それでもよかったけど」
ハハッと笑って言ったあたしとは反対に、優太は真面目な顔をしてくる。
「……つーか、そのつもりだったし」
見て感じる程度の不機嫌さ。あたしから目線を逸らし、眉間に皺まで寄せてるのに、怖くはなかった。
それは多分、優太が頬に微かな赤みを乗せていたから。
「……えっと、っ!」
心臓か、肩か。優太と再び目が合った瞬間、体中が跳ねた。
言葉にされなくても、優太の視線が「意味分かる?」と、聞いているような気がする。
「……」
多分あたしはこの時、異性に好意を向けられる優越感にも似た安心感を、初めて知ったんだ。
嫌じゃない。
ただ、それだけを感じていた。



