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「緑夏ちゃーん! この服、変じゃない?」
部屋を出て名前を呼びながらリビングのドアを開けると、パソコンと向き合っていた緑夏ちゃんが顔を上げる。
「うん、素敵! 大人っぽい!」
「……それ老けてるって言いたいのかなぁ」
「あ! 禁句なんだっけ、“大人っぽい”!」
ハッとして口を手で押さえる緑夏ちゃんに肩を竦めて、「いいよ別に」と返す。
同居を始めてから1週間。
当たり前だけど緑夏ちゃんはサヤほど忙しくはなく、ふたりでいる時間が増えた。
必然的に距離は近くなって、お互いまだ少し気は遣うものの、それなりに仲良くはなったと思う。
「何してんの、休みなのに」
「今度の会議で使う資料だよ」
パソコンを覗いてみたけど、全く意味が分からずすぐに視線を逸らした。
「社会人て大変そー。休みの日まで仕事なんて考えらんない」
「あはは! そうでもないよ?」
「……そんな楽しそうに言われてもねぇ」
「えっ! そう!? 楽しいけど、そう見えるなら嬉しいなぁ」
へへッと笑う緑夏ちゃんは、本当に仕事が楽しいという感じだ。
「あ、そっか。緑夏ちゃんって、入りたい会社に入ったんだよね」
確かサヤが、大学生の時から熱心に見学に来てたとか言ってたもんな。
「私、元々経営学を学んでたんだけど。ほら、社長って若くして成功したでしょう? 大学でね、たまに講演会をしてくれててね。この人の下で働きたいなぁって思ってたんだ」
「へ~。それで見事入社ってやるね」
「頑張ったからね」
得意げにそう笑う緑夏ちゃんの努力を、きっとサヤは知ってるんだろう。
「すごい優秀なんでしょ? 聞いたよ」
「え!? ……しゃ、社長が言ってたの?」
「うん、スキルを磨いてあげたいんだーって鼻の下伸ばしながら。気持ち悪いよね」
「……嬉しい」
ぽつりと呟くように、耳に入った緑夏ちゃんの言葉はどこか色めいていた。



