「本当うちの馬鹿が、気の回らないどうしようもないオッサンですみません」
「ひどい……! ちょっと緑夏ちゃんをからかっただけなのに」
「からかう社長のほうがひどいです!」
「違うよ、緊張をほぐそうと思ったんだよ!」
「言ってることがさっきと違います!!」
言い合うふたりに呆れながら、瞳を潤ませて抗議する緑夏さんをかわいいいなと思った。
仲良くやっていけそうだと、あたしは言い争いをやめないふたりに声をかける。
「はいはい! もういいでしょ。夕飯の準備するから、ふたり共大人しく座ってて」
「ごめんなさい……!」
ピシッと背筋を伸ばす緑夏さんに笑うと、今度はかわいい笑顔が返ってきた。
「凪の料理は絶品なんだよ~」
「社長いつも言ってますもんね。楽しみ……いやっ、私も手伝います!」
「あははっ! いいよ、今日はおもてなし? するから」
腕捲りしながら言うと、緑夏さんはキラキラと瞳を輝かせる。と、思ったら今度は何か言いたげにそわそわと体を揺らし始めた。
「何、どしたの緑夏さん」
「あ、あの……凪ちゃんって呼んでいいかな!?」
「え? ……はぁ、別になんでもいいですけど」
「あはははは! 温度差!!」
ひと言余計なサヤを緑夏さんは意外にも睨んで、すぐにあたしへ、はにかんだ笑顔を見せてくれる。
……かわいい人だな。お姉ちゃんみたい。
「じゃ、あたしも緑夏ちゃんって呼びます」
「うん! 今日から、よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします」
笑い合うあたしたちをサヤも嬉しそうに見ていたけれど、それは知らんぷりして、キッチンへと向かった。
声をかけたらきっとうるさいだろうし、言葉にされなくても分かってる。
『凪、いい子ー!』
そう思ってくれていると信じて疑わなかったのは、あたしとサヤだけのふたりの記憶があったから。



