「おいしい?」
「うん。サヤ、ココアだけは作るの上手いよね」
「ココアだ、だけは……?」
小さい頃から飲んでいたけど、サヤが作るココアはすごくおいしい。
少しぬるめのココアをゆっくり口に含むと、はっきり主張しない甘味が口の中に広がった。
温かくなる。サヤのココアを飲むと。
ほっとひと息つくと、サヤがマグカップを置いた音がする。見ると、なんでか姿勢を正していた。
「……どうしたの?」
単純にそう疑問視して、あたしもテーブルの上にマグカップを置いた。正座なんかされると、こっちまで姿勢を正さなきゃいけない気になる。
「あ、あのね……」
「乙女か」
「ひどい!」
だってモジモジするから、まるでこれから告白する女の子みたい。そう感じた刹那、あながち間違ってないのかもと思った。
「何? 何か大事な話でもあんの?」
「……すごい凪。なんで分かるの?」
「アホなの?」
「……」
そんなあからさまに肩を落とさなくても。あたしがいじめてるみたいじゃん。
今にも泣きそうなサヤに溜め息を吐いて、頭の回転を早める。
サヤが大事な話なんて、滅多にない。いつだったか、仕事のパートーナーを同居させる許しを請いに……。
「……秋元くん、また家賃払えなくなったの?」
「え!? あっくん!? ううんっ、今はもう身のほど知った賃貸マンション借りてる!」
「あ、そう……」
部下をあっくんとか呼ぶのもどうかと思うけど、身のほど知ったってひどいな。
でも、秋元くんじゃないんだ。



